2016年度協会設立10周年研究大会(報告)

2016年度研究大会の1日目の6月25日(土)は、以下の事例報告会を実施しました。

その内の事例2点は、昨年度事例の経過報告です。

1.聾学校支援事例報告

①二神さん「発達に課題のある聴覚障害生徒支援」

②武藤さん「異文化・異言語をもつ聴覚障害生徒支援」

2.地域事例

①稲さん「四国地域支援状況」

②楫さん「精神的課題をもつ聴覚障害者の就労支援」

先ず、聾学校支援では月1回定期面接が行われており、二神さんは発達に課題がある生徒と関わりました。当初は生徒の自己中心的な行動に学校や家族、周りも大変でしたが、次第に服薬管理ができるようになり、現在は生徒自身がパニックになりそうなときに集団から離れ1人になってみるというクールダウンの対処ができるようになったそうです。自らも学びの日々と述べていました。

武藤さんは面談終了後の担任教諭とのカンファレンスで社会資源の情報提供等を行ない、学校関係者との連携・協働支援による本人支援を行ないました。今後は本人の成長を見守りながら就労に向けた支援が課題と述べ、継続していくとのことでした。

次に稲会長から、四国地域ではろうあ者相談員や地域の関係機関(情報提供施設・行政等)と連携しながら個別支援を行なっており、主要拠点から遠距離という地域にありがちな継続支援の困難性が述べられました。一方、楫さんからは精神的な課題を持つ人の職場定着支援に対応する地域の事例について述べ、最終的には終結できたものの、地域の支援関係者(ピア)のエンパワメントを引き出すことの難しさを感じた、果たしてこれで良かったのだろうかと戸惑いつつも地域の力を信頼することの重要性についても考えさせられたと語っていました。

聴覚障害者が地域で生活していくためには、意思の疎通、コミュニケーションの保障の整備が必要となります。専門機関に対して聴覚障害の特性の説明ができること、無い社会資源は開拓できるようにサポートすることが私たちソーシャルワーカーの重要な役割であり、なかま事業での支援のポイントとなっていることを改めて会員相互間の共通認識として共有しました。

 

研究大会2日目の26日は一般公開としました(詳細はこちらをご参照下さい)。

午前と午後にわけて行い、午前は当協会設立10周年を振り返るというテーマで、設立当時からの稲会長、矢野副会長、一色副会長がパネリスト、原顧問が進行を務め、資格をとったきっかけ、忘れられないことなど語ってもらいました。

「SWはSMか」とろうあ者に誤解され笑うに笑えなかったこと、当時は聞こえない人の相談支援について関心や反応が少なく、事例もなく、東日本大震災支援では、地域の相談支援が実際に進められていなかったという実態がわかりゼロに近い状態から支援体制を進めてきたことなどがそれぞれ語られました。今後は聞こえに関係なくSWとして活動し、聴覚障害者の相談支援事業の重要性について社会に訴えていこうと締めくくりました。

午後の基調講演は、大阪府立大学教授のスクールソーシャルワーク評価支援研究所所長の山野さんに文部科学省に訴えてきたSSWの必要性と経緯について話していただき、横浜市教育委員会渡辺さん、全日本ろうあ連盟副理事長小中さん、群馬と秋田の聾学校校長先生、舘脇事務局長をパネラーに、矢野副会長の進行でパネルディスカッションを行いました。

山野教授は、学校教員は動ける範囲が限られていること、家庭と学校、教育委員会、地域、行政すべての関係機関との連携を行なう学校SSWが必要であると述べられました。パネラーからは、なかま事業による派遣で地域文化特有の困難事例に対応(アウトリーチ)してもらい助かったこと、また校内の特別指導が減少したこと、地域のSSWの制度化につながったのは自治体の取り組みと実践がありそれにはエピデンスが有効になること、聾学校のSCとSSWの設置については今後も国に働きかけていくこと、ピアの存在の重要性、などそれぞれの立場から語られました。

今回の基調講演とパネルディスカッションにより、聾学校(聴覚支援学校等)のSSWの必要性については共通認識できた、今後は人材の育成が課題になることから更なる取り組みを広げていきたい、多くの「なかま」の登録ワーカーにはこれまで以上に協力をお願いしたいと結びました。