新会長からの挨拶

本年度から会長に就任いたしました、矢野耕二と申します。東京聴覚障害者自立支援センターというところに勤務しており、2007年から東京都立ろう学校でのスクールソーシャルワーク、2008年から企業で働いている聴覚障害者へのジョブコーチを経て、今年4月から聴覚障害者に特化した就労移行支援事業「RONAスクール」を開始しています。

聴覚障害は軽い障害だという見方が現在でもかなり多くあります。確かに、行動障害は基本的にありませんし、書けばわかるだろう、手話通訳や要約筆記をつければ判断、決定、行動ができるんだからあまり大変ではないだろうと見られてしまいます。

しかしながら、聴覚障害によるコミュニケーション障害は、想像以上に大変なものです。聞こえる人は職場でちょっとした雑談や、昼休みに一緒に食事をしたりして、仕事のストレスをうまく発散していると思いますが、聴覚障害者は9時~17時までひとりぼっちです。

また、近所の方からのあいさつが聞こえないために、あいさつを返さず、これが、あの人は挨拶しても返さない、非常識な人だと見られてしまうこともあります。単にあいさつが聞こえなかっただけのことなのに、人格評価されるわけです。

加えて、相談支援が必要な聴覚障害者の場合、手話通訳や要約筆記といった情報保障を受けたとしても、十分な判断、決定、行動ができにくいことが多いのです。言語力が十分でなく、そのために社会性もまたきちんと身についていないからです。では、なぜ言語力が十分ではないのでしょうか。聞こえる人が普段使用している言葉は、ほとんど耳から聞いて覚えたものでしょう。赤ちゃんのときに、おっぱいを飲ませてくれるやさしい女性から「私はママ」と、そしてお風呂に入れてくれるやさしい男性から「私はパパ」と言われて、「母親」「父親」を認識するのでしょうし、「あ」と「い」というそれぞれの発声を聞いて、それをくっつけて「あい」、そう、「愛」を認識し、人間として一番大切なものを知ります。聴覚障害者の場合は、耳からこうした情報が入ってきません。私たちの大切な言語である手話は、長い間、ろう学校からも一般社会からも否定されてきたため、手話から言語力を身に付けることも難しい状況でした。

こうした、聴覚障害者の生きづらさなどを知ってもらい、聞こえない人も普通の市民として暮らしていけるようにというのが、私たちの願いです。 このHPをご覧になった聴覚障害当事者または手話のできる社会福祉士、精神保健福祉士の皆さん、協会に入会して、私たちと一緒に聴覚障害者への相談支援を考えていきませんか。

手話ができない方も、聴覚障害について知りたいことがあれば、遠慮なくメールでお問合せください。今後ともよろしくご指導、ご鞭撻をお願いします。

一般社団法人 日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会

会長 矢野耕二